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2012年01月02日

垂れ細目

 媒体は何でも構わないが、二人の人間が殴り合っているシーンを描くとしよう。子供の喧嘩ではないので、そのパンチが非常に強いものであることを演出したい。その時何をどのように描けば、見ている人々にそれを伝えることができるだろうか。

 あまり演出というものを考えたことのない人は、いくつかの方策を思い付くだろう。殴る人間を大きく映す。殴る手をアップにする。効果線をたくさん入れる。雄叫びをあげさせる。派手な効果音を入れる。etcetc…。しかし多少なりとも演出というものを考えたことのある人は一つしか答えない。「殴られた人間をボロボロにする」。

 攻撃の強さというものは、攻撃された側の被害を以てしか描写できない。何でかは知らない。赤が赤いのと同じで、理由を考えても答えは出ない。心理学を囓った人間なら幾つか適当な答えを出すだろうが、そんな輩にはトマトでも囓らせておけばいい。「トマトがうまいのはなぜか?」。

 破壊を描く。創作に携わっていて、性別が男なら、多くがそれに強い執心を抱くだろう。しかし実際に試してみて、うんざりする。破壊を描くには、破壊されるものについても、破壊するものについても、深く知らなくてはならない。上っ面だけでなく、中身も素材も構造も物理も知らなくてはならない。船に砲弾が当たれば穴が開く。穴の中を描かずに済ませる方法は?素材や構造によって穴の開き方は異なる。全部同じ描き方で済ませられないだろうか?どうにも面倒臭い。そもそも破壊を描かずに済ませられないだろうか?

 一番良いのは戦闘を描かないことだ。世の中にはテンプレートが溢れているし、テンプレート通りに作ることを消費者は求めている。面倒なことはやらない。それは完全なる正義だ。

 さて、そこでラストエグザイルである。演出の残念な作品だ。船を壊すことができないなら艦隊戦なんて描かなければいい。リンゴ一つ潰すだけでもアニメで描こうと思ったら一苦労だ。ましてや空想の飛行艇の艦隊戦を描こうとするなら、そこに要求される技術と労力は半端では済まないことは想像するまでもない。そこで「無理だし、煙と透過光でごまかそう」という判断はアリだろうか?現場の判断としては、言うまでもなくそれはアリなのだろう。それと引き替えに艦隊戦が艦隊戦ごっこにしか見えなくなっても仕方ない、という判断はアリなのだろうか?言うまでもなく…まあいい。一番良くないのは、面倒であると知っていながら手を着けて、半端なまま放り出すことだ。無論それをしたところで誰かや何かに罰せられるわけではない。結局は誠意の問題だ。

 その点に於いて、スカイ・クロラの演出には誠意を感じる。弾を食らえば破片が飛び散る。穴が開く。羽がもげる。バラバラに分解して落ちていく。面倒だが欠かさざるべき破壊描写をきちんと描いている。だから視聴者は、戦闘機から放たれる12.7ミリだか20ミリだかの弾丸の怖さを、そして戦闘の怖さを感じることができる。話のほうはさておき、森博嗣原作だからといって忌避している方には鑑賞をお勧めする。

 と、まあそんなことはアニメ界隈ではずっと昔から交わされてきた話なのだろう。理想、願望、コスト、妥協、そして誠意。誠意とは勿論客に対するものではない。自分たちが作るものへの誠意だ。

 破壊描写では論外と言う他ないラストエグザイルだが、キャラクターデザインのほうは村田蓮爾が関わっているためか秀逸と言える。村田蓮爾はアニメ界隈ではあまり評価されていないようだし、アニメの教科書的にもまた評価はされないのだろうが、垂れ細目という形態は新しい。アニメキャラの目が大きい理由の一つは、演技を容易にするためには画面に占める目の面積を大きくしたほうが都合がいいからに相違なく、細目はそれだけで反教科書的だ。それでもバリエーションを確保するために細目は必要なわけだが、これまでは専らそれは吊り細目と糸目によって供給されてきた。吊り目は細くしても眠くならないので演技に支障が出ないし、糸目(横一本線で描く目)はその歴史的お約束のおかげで作画上の演技の欠落の補完を視聴者に委ねることができる。垂れ細目は、目を細めているのかいないのかわからない。いや、細めてるんだよと言って平常状態からさらに細めれば画面上にほとんど目が映らなくなってしまう。目を細めるという演技なんて必要ない、という演出家もいるのかもしれないが、私はそういう人間が作った作品を見たいと思わない。

 そこを押して垂れ細目を、しかも準主役に採用するというのは通常なかなかないのではなかろうか。私もアニメに詳しいわけではないので反証はいくらでも出てくるのかもしれないが、ジゼルとアリスがいいキャラであることに変わりはないだろう。テンプレートをなぞるのも見るのももう飽きた。


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